至福のとき ~しあわせとはなんだろう?

「あなたは何のために働いていますか?」

そう問われたら何と答えるでしょうか?

「当然稼ぐためだ」

と答えるかもしれません。

では、

「何を目的に生きているのか?」

と問われたらどうでしょうか?

ひとによって表現は異なるかもしれませんが、

「幸せになるため」

という主旨の答えが多いのではないでしょうか?

作家の村上龍は、「コインロッカーベイビーズ」のなかで、

登場人物に

「自分が最も欲しいものは何か分かっていない奴は、

欲しいものを手に入れることが絶対にできない」

という台詞を与えています。

幸せになることが目的だとしたら、

今の仕事や働き方は目的を叶えるための手段として正しいのか?

幸せになるには何をすればよいのか?

日々の暮らしにあくせくしていると、

そんなことを考える余裕はなくしてしまいそうですが、

たまには立ち止まって考えたいものです。

ちなみに、明石家さんまは、昔のテレビCMで、

「幸せって何だっけ?」とはじめて、「ポン酢醤油のあるうち」と締めくくっています。

ポン酢を売るCMですが、鍋を囲む一家団欒が幸せ、と言っているので、秀逸なコピーだと改めて感心します。

前置きが長くなりましたが、今回は中国の巨匠チャン・イーモウ監督の「至福のとき」を取り上げます。

本原稿執筆時点(2023年6月2日)で、U-Next, Netflix, Amazonプライムビデオのいずれでも視聴できなくなっている

(そんな作品を取り上げるんじゃねぇ、というお叱りはあろうかと思いますが、自分の思い入れを優先します。

ご容赦ください)ので、

ネタバレを含むあらすじを紹介します。

あらすじ

勤めていた工場がつぶれ失業中のチャオはうだつが上がらない中年男。見合いを繰り返し、何とか結婚しようと躍起になっている。そして、自分は旅館を経営していると偽って、新たに見合い相手を見つける。

相手の女はふたりの子供を育てている。ひとりは前の夫の連れ子で、ウーという名の盲目の少女である。前の夫は、ウーの治療費を稼ぐと言って深圳に出稼ぎに行き戻らない。見合い相手はウーにきつく当たり、見ているだけでも痛ましい。

チャオは見合い相手から頼まれ、ウーを雇うことになってしまう。

チャオは、取り壊し前の工場で元の仕事仲間を集め、簡易のマッサージ店を作り上げた。結婚の機会を逃したくないチャオは、仲間に客のふりをして代わるがわる施術をしてもらう。

チャオは、宿舎だと称してウーを自宅に住まわせる。気づかれないように家財を売って生計を立てていた。可愛らしいワンピースをウーに買い与えることもあった。

チャオと失業者仲間たちは、深圳に向かう交通費だけでも工面したかったが、金策に尽きる。紙で用意した偽札をチップとして使いマッサージ店を継続しようとする。ウーは、からくりに気づくが、だまされたふりを続ける。

見合い相手はチャオの身分に気づき、新たな婚約相手を見つけていた。さらに、ウーを返せと告げる。失意のチャオは酔いつぶれ、事故に遭ってしまう。仲間たちが駆けつけるが面会謝絶。チャオが事故に遭う前に書き留めたウーへの手紙を見た仲間たちは、父親からだと偽り伝えてあげようと決意する。

ウーが寝泊まりしているチャオの部屋を訪ねると、メッセージの入ったテープだけが残されウーの姿はなかった。マッサージ店やチップが偽物だと気づいていたことを明かすウー。チャオたちと過ごした時間は、自分にとって「至福のとき」だったと感謝の気持ちを述べる。

チャオが買ってくれたワンピースを着て、ウーが雑踏の中をひとり歩き続けるシーンで映画が終わる。

僕は、この作品のDVDをもっていて、今までに3回鑑賞しています。

最初に観たときには、エンディングのシーンで、主人公のウーについて、

「なんてかわいそうなんだ。チャオ立ちと過ごした至福が人生最良のときで、このあと垂れ死んでしまうんじゃないか」

との感想を抱きました。

ところが、2回目以降は、

「論理的な理由はまったくないけれど、ウーはこのあと幸せな人生を送るに違いない」

と思うようになりました。

自分でもなぜそう思うようになったのか、わかりません。

また、映画を観た他のひとがどう感じるのか、興味があるのですが尋ねたことがありません(そもそも観た人が少ないんですが)。

ビジネスでも幸せを考えるようになっていて、

米国の心理学者マーティン・セリグマンがポジティブ心理学を提唱してから活発に研究され、

ビジネスのパフォーマンスへの影響が大きく、マネジメントの課題として重要視されるようになりました。

セリグマンの著書「世界でひとつだけの幸せ」が出版されたのが2004年(原著は米国で2002年に出版)ですから、

最近のできごとです。

セリグマン以前は、心理学の研究対象は、もっぱら精神疾患などネガティブな状態を回復させることで、

幸せについて研究しようとする発想はなかったようです。

セリグマンは、年収と幸福度の関係について調査し、

年収が7万5千ドル以下では年収が上がるにつれ幸福度も上がるが、7万5千ドルを超えるとほぼ一定になり、

年収が増えても幸福感を得られないと結論づけています。

また、セリグマンは著書のなかで、幸せについての有名な格言を紹介しています。

  • もし 幸せになりたいなら
  • 1時間なら昼寝をしなさい 
  • 1日なら釣りに行きなさい 
  • 1ヶ月間なら結婚しなさい 
  • 1年間なら遺産を相続しなさい 
  • 一生涯なら人を許し助けなさい

映画に話を戻すと、チャン・イーモウ監督作品のなかで、「至福のとき」と「初恋のきた道」^あの子を探して」を合わせて幸せ3部作と呼ばれています。チャン・イーモウは大作映画は得意でなくお奨めできませんが、幸せ3部作は、わかりやすくで素直に感動できるので、作家性の高い映画を見慣れていない人にもお奨めです。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 参考URL

「至福のとき」 Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%B3%E7%A6%8F%E3%81%AE%E3%81%A8%E3%81%8D

参考文献

マーティン・セリグマン. 2004.「世界でひとつだけの幸せ」、アスペクト

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