今回はキリンで様々なメガヒットブランドを生み出したマーケティングの天才前田仁の話をします。
ビールでは「一番搾り」、「ハートランド」、発泡酒の「淡麗」、「淡麗グリーンラベル」、第三のビール「のどごし」、缶チューハイ「氷結」を世に送り出しています。
ビール業界全体を見渡しても複数のメガヒットを飛ばしたマーケターは皆無といってよいそうです。
前田仁についてはたくさんの書籍が出版されています。しかし、当然ながらこれらの書籍を読んでも同じようにマーケティングの業績をあげることはできません。
前田自身が、「どうすればヒットするか俺にはわかってしまうんだ」という言葉を残しており、センスのよい部下を集め、マーケティングには向いていないと判断すると他の部署に異動させるようにしています。
前田の手腕は誰にも真似ることができず、つまり再現性がなかったわけですが、前田に関する書籍「キリンを作った男」には、他者に真似ることができ、しかも最も印象に残る行動についてのエピソードが残されています。
2002年に日韓ワールドカップが開催されたとき、キリンは「サッカー日本代表応援缶」を発売します。中身は「淡麗」で、缶には出場予定選手達の直筆メッセージが描かれていました。
前田の部下がリーダーを務め、売れ行きも上々だったのですが、大問題が発覚します。
普通の淡麗には原材料として記載されている米が日本代表応援缶では記載漏れになっていました。
最終的なチェックを行ったのがリーダーである前田の部下でした。
中身は全く同じですが、大手のスーパーなどから返品が相次ぎキリンは多大な損失を被ります。
この事態を受けて会社は担当していたリーダーとその部下1名の譴責処分を決めました。
人事から説明を受けた前田は、故意でやったわけではないのだから譴責処分はあんまりだと食い下がります。人事は、就業規則には会社に多大な損害を与えた場合は処分するとなっており例外を認められない、と頑なな態度を崩しません。結局、処分を覆すことはできませんでした。
そこで前田は、自分自身も同じ譴責処分にするよう人事に詰め寄ります。
前田は今回の問題に直接は関与しておらず、人事としては将来の有力な役員候補である前田を処分したくありませんでした。
しかし、結局は前田に押し切られる形で、人事は3名の譴責処分を決定します。
このエピソードが社内で広まり、前田は部下を徹底的に守る理想の上司として信望を集めます。結果的に、譴責処分はキャリアの足かせになることはありませんでした。
誰もが同じような状況に遭遇するわけではありませんが、天才でなくても実行でき、すなわち再現性がありつつ、部下を徹底的に守る理想の上司として信望を集めた。これが前田仁のストーリーです。
参考文献
「キリンを作った男」 永井隆 プレジデント社
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