情報システムの費用対効果~決裁は気合が9割

情報システム選定の難しさ

上場企業(製造業)のDX担当管理職の方から、こんな相談を受けました。DXの目玉プロジェクトについてです。DXといっても、主なテーマは基幹システムの再構築で、手組みの既存システムをERPに置き換えるのだそうです。

課題のひとつめは、ERPとしてSAPかMicrosoftか、どちらを選ぶか? 昔はSAP vs Oracleだったのに、いつの間にかOracleの影が薄くなっちゃいましたね。

相談に対してはSAPをおすすめしました。SAPはMicrosoftに比べて少し値段が高く、機能も少しだけ豊富だと言っていいと思います。製造業はコストに厳しいので少しでも安いMicrosoftを選択することは理にかなっているのですが、もう1つ重要な点がありました。

ERPはパッケージソフトなので、どちらを選んだとしても既存の業務に対しては合わないところがあり、追加開発をするか、パッケージの機能で我慢するか選択する必要が生じます。

ERP黎明期の失敗事例は、既存業務をそのまま踏襲しようとして追加開発が膨らみ、コストがかかるだけでなく、プロジェクトとして収集がつかなくなるというのが最も典型的なパターンでした。

最近はそういった失敗をしないよう、「既製服に体を合わせる」という考え方が浸透してきています。

とはいえ、プロジェクトが進んでいくと、現場から「自分たちの業務はこうなのに、なぜパッケージに合わせないといけないのか」という不平不満が出ることは間違いありません。

とはいえ、パッケージソフトを使わずに1からスクラッチ開発をすべきだという人はいません。なぜならコストがかかりすぎるからです。

そのような状況下では、たとえわずかでも機能が見劣りするパッケージソフトを選んだ場合には「なぜ機能が豊富なものを選ばなかったのか」というそしりを導入推進部門が受けることになってしまいます。

そういった事態を避けるためには、多少コストがかかっても機能が充実しているパッケージソフトを選ぶ方が無難であり、導入推進部門が自らを守るための最適な方法になります。

この時、経営陣が「少しでも安いパッケージソフトを選ぶべきであり、現場から不満が生じた場合には自分が責任を持って抑え込む」と言ってくれれば選択は変わってくるのでしょうが、伝統的な日本企業の場合、自らリスクを背負う役員はまずいないと考えても良いと思います。

結果として、私の推奨通りSAPを採用して、プロジェクトが開始されました。

ROIを通す決め手は?

導入推進部門が何を導入するか決めたとしても、投資が巨額ですから、決裁をやるのは大変です。

教科書的に言うと、以下の要素を考慮して決定します。

  1. 戦略的整合性
    システムが企業の長期戦略やビジョンとどのように整合するかを明確に示すことが重要です。将来の市場動向や競合他社との差別化、ビジネスの拡大可能性などを考慮に入れ、システムがどのようにこれらに貢献するかを説明します。
  2. 運用効率の向上
    システム導入によって業務プロセスがどのように改善され、効率化されるかを強調します。具体的な作業時間の短縮やエラーの削減、リソースの最適化など、日々の運用面での利点を示すことが重要です。
  3. 従業員の生産性向上
    新システムが従業員の作業負担を軽減し、より創造的かつ価値の高い業務に集中できるようにすることを強調します。従業員の満足度向上やモチベーションの向上も重要なポイントです。
  4. 顧客満足度の向上
    システム導入が顧客体験をどのように向上させるかを示します。より迅速な対応、パーソナライズされたサービス、顧客ニーズのより良い理解などが挙げられます。
  5. リスク管理とコンプライアンス
    新システムが企業のリスク管理や法的コンプライアンスの強化にどのように寄与するかを説明します。セキュリティ強化や規制順守のための機能などが該当します。
  6. イノベーションと市場適応性
    システムが企業に新たなイノベーションをもたらし、市場の変化に迅速に対応できる体制を作ることができる点を強調します。

しかしながら、私が見聞きしている多くのプロジェクトでは、既存システムを利用するために費やしていた手間が新システムに置き換えることによってどれだけ削減できるか、算出して積み上げていくというものです。

例えば、伝票の入力に5人かかっていたものが3人で済む場合には、2人分の人件費が浮きますから、その人件費を一般的なシステムの減価償却期間、例えば5年分、積み上げます。

この場合、システム効率が向上した場合の余剰人員は派遣社員の契約を打ち切るなど、コスト削減につなげるか、別の付加価値業務に従事することを前提としています。

いわゆる「取らぬタヌキの皮算用」なのですが、本来、情報システムの刷新によって得たい効果、例えば売上を向上させるといったことについては、一層数字を上げることが難しいので、通常は行えません。

少し前提を変えれば数字の中身が変わってしまうのですが、取りまとめ部分はこの数字をもとに役員の決裁を得ます。決裁をする側でも、この数字が如何様にも操作できてしまうものだということはよくわかっています。

したがって、本当に確かめたいのは、プロジェクトを進める人たちが不退転の決意で臨むのかどうか、という点に集約されると思います。

情報システムの場合、5億円で導入するはずだったのに、蓋を開けてみると10億円を超えるというようなことが少なくありません。

プロジェクトの推進者たちが厳しい状況で逃げてしまうようだと、傷口はますます広がります。

ですから、苦しい状況にあっても最後までやりきる決意を担当者が持っているのかどうかがとても重要です。

私の経験に照らすと、プロジェクト推進者はこの点についてあまり理解しておらず、しっかりした資料を作ることに時間を費やしすぎているような気がします。

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