ChatGPTの利用拡大は、マインドの変化から

ChatGPT活用にみる二極化

行政でChatGPTの利用推進に努めたが、東京都でさえ利用する職員は対象者の1割にとどまっていることが明らかになりました。「何に使ってよいかわからない」ことなどを理由に挙げています。

東京都で1割といわれると、前途多難な感じはします。今起こっていることは、新しい製品を積極的に使ってみようと思う層と、利用をためらう層の分断です。この構造はキャズム理論として知られており、ChatGPTに限らず、さまざまなテクノロジー浸透の過程で観られる現象です。

出所:https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/chasm-theory/

キャズム理論の前提となる考え方といってもよいイノベーター理論では、新たな製品の普及の過程を、これらを採用するタイミングの早い消費者から順番に、以下の5つのタイプに分類しています。

イノベーター(革新者、市場全体の2.5%)
アーリーアダプター(初期採用者、市場全体の13.5%)
アーリーマジョリティ(前期追随者、市場全体の34%)
レイトマジョリティ(後期追随者、市場全体の34%)
ラガード(遅滞者、市場全体の16%)

イノベーターとアーリーアダプターによって形成される市場を“初期市場”、アーリーマジョリティからラガードがつくる市場を“メインストリーム市場”と呼び、これらの間にはキャズムと呼ばれる大きな溝(市場に製品を普及させる際に超えるべき障害)が存在しており、キャズムを乗り越えることが市場開拓で重要だとする考え方がキャズム理論です。

東京都でChatGPTを積極的に利用する職員が10%程度ということですから、概ねキャズムの溝に落ち込んでいるといってよいでしょう。

キャズムを越えれば本格的な利用拡大時期に入ると言え、今は夜明け前捉えることもできますが、推進する立場にある人にとっては難しい局面であることは間違いありません。

業務に落とし込む

ではどうしたらよいのでしょう?

アーリーアダプターは、「ChatGPTは役に立つツールです」と、ツールの説明を受ければ使い始めますが、アーリーマジョリティ以降の層に属す人たちは、これでは動きません。「何に使ってよいかわからない」という意見を踏まえて、どんな業務で、どう役立つか、具体的に示すことが解決策になります。

すなわち、

・あなたのこの業務で、

・このプロンプト(ChatGPTに質問する際の入力文)を用いて、

・すぐにうまくいくとは限らないので、こうやって改善していけば、

業務に役立つと示すことが、成功への王道になります。

これは、ユーザひとり一人に寄り添って伴走することを意味しますから、とても手間のかかる作業です。推進部門の体制は限られており、とてもこんなやり方はできません。

中長期的には、ユーザ部門に属しながら、一般的なユーザに伴走してChatGPTの活用を助ける人材(パワーユーザと呼ぶことがあります)の育成が求められます。では、短期的に何ができるでしょうか?

支援する人を絞り込む

まずは1名だけでいいので、ChatGPTが業務に役立ったと喜んでくれる人を生み出します。ゼロとイチでは全く違います。止まっている車を少しでいいから動かすには大きなエネルギーが必要ですが、動き始めた車の速度を上げるのはさほど難しくありません。

問題は、誰をその1名として選ぶのか、です。

どんな人が望ましいでしょうか?

  • 業務の改善に意欲をもっている人

ChatGPTを使って業務を改善する意欲をもっていて、多少つまずくことがあってもやる気を失わずにやり続けてくれることが大切です。こういった人は、業務のやり方を工夫するので、推進部門が予想していなかった成果を上げるかもしれません。

  • 業務がわかりやすい人

成果が出た業務について他部門の人が聞いたときに、何がうまくいったのかイメージでき、具体的にはわからなくても自分の業務でも効果が出るかも、と思ってもらえると、取り組みに弾みがついていきます。

  • テクノロジーに弱そうな人

テクノロジーに弱そうな人、具体的には、年齢が高めで、いかにも優秀そうな見た目でないほうが、成果を挙げたときに「自分でもできるかもしれない」と思ってもらえやすくなります。周りからはテクノロジーに弱いと思われているけれど、実はそうでもないという人なら理想的ですね。

  • 影響力のある人

成果が出ると、その人には、宣伝部長としての役割が期待されます。「わたしでも、こんなにうまくいった」、「推進部門の人たちが助けてくれて、やってみるとカンタンだった」といった感想を、ことあるごとに流布してくれるような人が望ましいです。

徹底的に支援する

ひとりでいいので、確実に成功例を生み出します。

業務プロセスについてヒアリングし、ChatGPT活用による業務効率化の方法を提案します。できれば業務改善の効果を定量化することが望ましいです。

プロンプト(ChatGPTに質問する際の入力文)についても作成してあげます。最初から効果を発揮することは稀なので、最後まで寄り添って、継続的に改善していきます。

支援の内容がどれだけ素晴らしかったか、ということよりも、親身になって支援し続けてくれた、と対象ユーザが思ってくれることのほうが大切です。支援したユーザが期待通りの成果を挙げられるか、やってみないとわかりませんが、徹底的に支援してくれたとの印象を残せれば、取り組みが失速することはなく、いつか成功すると期待してよいのではないでしょうか。

成功例を広める

成功事例が生まれたら、本人が口コミで広げることに頼ってはいられません。組織内の会報やイントラネットなど、さまざまなチャネルを駆使して成功例を広めていきます。

さらに、経営陣を巻き込んで、ChatGPTの活用に組織として本気で取り組んでいることを知らしめるのも手法のひとつです。

実際には、支援する人を選ぶ段階で、すでに成功例が存在するはずです。おそらくアーリーアダプターで、周りからも、「あの人ならAIを使いこなすよね」と思われる人かもしれません。それでも組織内に成功事例があることは心強いに違いありません。どうやって成功事例を広めていけばよいか、いろいろ試す段階だと考え、間違っていてもいいので、試してみることが、のちのより大きな成功につながります。

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